鎌倉彫金工房のクラフトマンシップ vol.1 マニュアルはいらない
2021.06.03
ファミリーレストランやファーストフード店などの接客業には、どこにも詳細なマニュアルがあるのだそう。
調理の手順だけでなく、接客の時に話す言葉やお辞儀の角度までもが細かく決まっているので、私たちは全国どこでも一定レベルのサービスを受けることができています。
一方、鎌倉彫金工房にはマニュアルがありません。
人として仕事をする。だからマニュアルはいらない
私たちがマニュアルはいらないと考える理由。それは、鎌倉彫金工房に「人として仕事をする」という精神が息づいているからです。
お客様と職人、教える・教わるという関係ではなく、人としての自然な関わりを大切に、自分たちがまず楽しむこと。人と人として、お客様にとっての気持ち良い空間とは何かを察して振る舞うこと。
これをスタッフが自然体で実行するために、形式的なマニュアルは必要ないのです。
また、お客様お一人おひとり、指輪1本1本、ひとつとして同じではないから、どんな状況にも役立つマニュアルというものが作れないことも理由のひとつかもしれません。
例えば、ワイワイお話しながら作りたいお客様と静かに作業に没頭したいお客様。同じ指輪をつくるのでも、求めている空間が違います。
私たちが大切にしているのは、マニュアル通りの“ぬかりない”接客ではなく、お客様とお客様の指輪に対して真剣に、真摯に向き合い、お客様にとって良い思い出になるような『空間づくり』。だからこそお客様との雑談をたのしみ、時に集中して作業に没頭していただき、人と人としてのコミュニケーションを大切にしていきたい……。
私たちにとってマニュアルがあるとすれば、それはお客様に気持ち良い空間を提供すること。私たちはそう考えています。
終わりがない仕事
このキズはこの作業でキレイに取り除こう。
これ以上削ると耐久性が確保できなくなる。
指輪作りでは、そんな感覚的な判断をすることもあり、これらの『感覚』は知識や経験を重ねることでしか磨くことができません。お客様がお作りになる指輪もまた、言葉や数値で表現してマニュアル化することができないのです。
これが鎌倉彫金工房がマニュアルを持たないもう一つの理由です。私たちの指輪作りや接客は、マニュアル通りにやればできてしまうような仕事ではなく、正解がない、終わりがない仕事だと考えています。
正解が曖昧だからこそ、「もっと良い方法あったのではないか」と考えて試行錯誤し続けること。他のスタッフの仕事に対して「そういうやり方もあるのね」と受け入れることを大切に。そうすれば職人たちも工房も、しなやかに変化し続けられるのではないか……。
マニュアルがない仕事は、終わりがない仕事。終わりがない仕事は、変化する毎日を楽しめる仕事なのかもしれません。