仕上がりが美しいことと、工程を楽しんでいただくことの両立
Craftman interview 13
J.YANAGI
メガネ屋さんに就職し、まったくの未経験から始めた職人 柳にインタビュー。
どのような経緯で、何を思って今の働き方を選んだのか語っていただきました。
“時間を忘れる”という経験をしたんです
──鎌倉彫金工房のスタッフになる前は何をしていましたか?
メガネ店の販売員として働いていました。そこの同僚で、友人だった鎌倉彫金工房の創業メンバーから「今度鎌倉で指輪の工房を作るんだけど、一緒に働かない?」と誘われたのが、転職を考え始めたきっかけで
彼の家に指輪を作る作業場があったのですが、おなじタイミングで、そこで一度指輪を作らせてもらいました。全くの未経験だったのですが、その時、数年ぶりに“時間を忘れる”という経験をしたんです。「できた!」っていう達成感で「これは面白い」って。今まで気づかなかった好きなことを見つけたような感じがしました。
元々どういうキャリアを積みたいとか、具体的に何をしたいというのがないまま就職をして、このまま働いていても先が見えないと感じていた時期でもありました。誘われたというのもありますが、この経験は転職を決める上で非常に大きな要素になったと思います。
何度もチャレンジするしかなかったですね
──最初に苦労したことを教えてください。
入社後は、お客さまと一緒に指輪を作る前に、ひとりでキレイな指輪を作れるようになるための修行のようなものから始まりました。未経験なので、作り方は懇切丁寧に教えてもらうんですけど、できた指輪がお客様に出せるものか、そうでないものか、その違い自体がわからなかったです。
試作したものをチェックしてもらうんですが、合格のものと不合格のものの違いすら見分けられないんですよね。例えば作った指輪を見せて「真円じゃないね」と言われても「いやいや、丸じゃない?」と思うんです。でも、サイズ棒で合わせてみるとやっぱり真円になっていなくて。
「これでいいのかな?」「これで合ってますか?」ってチェックしてもらって「やっぱり違いますか……」って。上手くできない自分にイライラすることもありました。そんなことの繰り返しで、もう何度もチャレンジするしかなかったですね。
仕上がりに関して迷うことは未だにありますけど、真円、歪み、キズなんかは感覚で分かるようになりました。ここは自信が持てるとか、これ以上削ったらダメだとか、これなら次の工程で綺麗にできるとか、分かるポイントが少しずつ蓄積されていっている感じです。1つとして同じ指輪はないですから、その迷いはやっぱりいつまでもあるんだと思いますけどね。
一緒にものを作るサポーターとして
お客様を担当できるようになってからは、自分がどこまでお手伝いすべきかということに悩みました。絶対に失敗できない中で、自分がどこまで手を加えればお客様が納得してくださる指輪ができるだろうと考えていたんですが、ここはお客さまに作っていただく工房ですから、自分が手を加えすぎてもダメなんですよね。
綺麗な指輪ができたら作った私としては満足できるかもしれませんが、一方お客様は“お兄さんが作ってくれたもの”となってしまうかもしれない。仕上がりが美しいことと、工程を楽しんでいただくことを両立させて初めて、お客様に喜んでいただけるものができるのだと実感しています。
──そのほかに、接客で心がけていることは?
自分らしさ、ですね
接客というと、常に笑顔とかハキハキと話すとかの方が圧倒的に印象はいいと思うんですけど、鎌倉彫金工房の場合は、接客というより、お手伝いという印象のほうが強いです。もちろんお客様ではありますが、一緒にものを作るサポーターとして自分の素を出しながらお客様と接することを大事にしています。
「何を求めてこの場に来てくださったのか」
あとは、楽しい場であることですね。ただ、人によってその“楽しい”感覚って違うじゃないですか。おしゃべりしながらワイワイしたり、しゃべらずに没頭したり。何を求めてこの場に来てくださったのかを汲み取った上で、雰囲気や話のネタを変えています。これは経験の積み重ねですが、スタッフごとに個性が出ますから、盗み見て自分の接客に取り入れることもありますよ。逆に僕の接客を他のスタッフが真似していることもありますしね。自らの素を出しながら、スタッフ同士で影響を与えあっているような感覚です
前職が接客業でしたし、お客様を担当する前、先輩スタッフにロールプレイングをしてもらったので、ある程度想定できてはいましたが、実際の接客はより高度だと感じています。
「お客様が達成感を感じている時、単純に嬉しいって思います」
──やりがいを教えてください。
お客様が達成感を感じている時ですね。「やった!作ったんだ!」っていうお客様の顔を見た時、単純に嬉しいって思います。安心もしますしね。
最初に完成品のサンプル見ただけだと、本当にできるのかなって不安に感じられるお客様が多いんです。でも、そんな不安が強ければ強いほど、できあがった時の感動が大きいような気がしています。僕が初めて指輪を作った時のあの感動や達成感を感じてもらえたら嬉しいですよね。「もう3時間経ってる!」という声、これも凄く好きです。
素のままで楽しく仕事できる人
──どんな人と働きたいですか?
自分らしさを大切に、素のままで楽しく仕事できる人。また、未経験に門戸を広げているという意味でも「まずやってみよう」「やってみてから考えよう」というような楽観的な人と一緒に働きたいですね。 その上で、常に自分の立ち位置を考えていることも大切かもしれません。自分の技術を表現したいという人は大変だろうなって思います。僕たちはお客様が作るものをお手伝いするという立場である以上、技術職ではあるものの、お客様とお話したりご希望に沿うようなアドバイスをしたりしなければならないですからね。
──最後に、新しく一緒に働く仲間に一言お願いします。
うーん……。今のところ“ジョイナス!”しか出てこないですよ。
──ちゃんと採用ページに載せますね。
やっぱりやめてください(笑)