特別なひとつを、大切な人と。
Craftman interview 15
M.MASUHARA
あらゆる加工作業を担う、増原。彫金と不思議な出会いを果たした彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客さまと、指輪と向き合っているか話を聞きました。
「あなたは彫金をやったらいい」
社会人になって5年ほど京都のエステサロンで働きました。退職して上京する直前のこと、すごい宮司さんがいるという噂を聞いて行った神社で、その方が私に向かって「あなたは彫金をやったらいい」と仰ったんです。「彫金って何だろう?」と、帰りながらスマホで検索したのを覚えています。その方に助言されるまで存在すら知らなかった彫金が、今こうして大好きな仕事になっているのですから不思議ですよね。
彫金を学べる学校を探しつつ、上京してすぐオーダーメイドの結婚指輪・婚約指輪をデザインする職に就きました。入社してから知ったのですが、行きたいと思っていた学校を運営していたのがまさかの就職先。働きながら無償で通わせていただくことができて、ますます運命を感じました。
学ぶうちに「彫金職人ってかっこいいじゃん」と、すっかりハマってしまい、在学中の2年間はほぼ毎日、仕事が終わってから学校へ通いました。
鎌倉彫金工房へ転職したのは、実際にお客さまと手を動かせたら楽しいんじゃないかという思いから。現在は、お客さまの手作り結婚指輪のお手伝いをしながら、社内では、加工スペシャリストという役職につき、お預かり品の加工や品質向上への取り組みにも関わっています。
加工スペシャリストになるまで技術を極められたのは……
加工スペシャリストになるまで技術を極められた理由は、クリエイティブなものへの情熱だけじゃないんです。それもこれも、はじまりはお客さまとのコミュニケーションの質を向上させたいという思いからでした。やっぱり沢山引き出しがあった方がいいじゃないですか。お客さまのご要望をより深く正確に汲み取ることができて、より広く、わかりやすくお伝えできたらいいなと思って。
ただ負けず嫌いなだけかも、と思ったりもします。やればできることをやらないままにしている自分が、負けているような気がして嫌で。2年間ほぼ毎日学校に通ったり、家にも彫金ができる環境を用意して練習したり、なんだかアスリートみたいですよね(笑)
手伝いすぎない接客
常に意識しているのは、手伝いすぎない接客。もちろんサポートが必要な部分は丁寧に行いますが、作りにいらっしゃっているのはお客さまなので、みなさまに「作れた!」「楽しかった!」と思っていただきたいんです。私たち職人が手を加えすぎなくても綺麗な指輪に仕上がるよう、伝え方やサポートの仕方を工夫するようにしています。
ほかに意識していることといえば、心地良い空間づくりも大切にしているテーマのひとつ。誰が接客してくれたとかは覚えていなかったとしてもいいんです。言葉遣いや振る舞い、音も、インテリアも、お掃除も、全部が相まって、何となく心地良い空間だったね、何となく素敵な工房だったねって、温かい気持ちでお帰りいただけたらいいなと思います。
特別なひとつを、大切な人と。
お客さまと指輪を作っている間、そういえば私ずっとニコニコしているなって気づいたんです、最近。家では全然そんなことないんですよ。普段はプンプンしたり泣いたり、ちゃんと人間やってるんですけど(笑)なぜだか仕事の間は自然に笑えているなって。
理由を考えたんですが、すごくシンプルなことでした。お二人の楽しそうな雰囲気や喜んでくださる姿を間近で見られるからなんだと思います。幸せのおすそ分けをしていただいてるような感覚です。
結婚指輪って特別なものだから。それを大切な人と手作りできるって、すごく良いことなんじゃないかな。作ったその日だけではなく、ふとその日を振り返って「こんなことしたね」と語る瞬間も、改めて特別に感じていただけると思います。特別なひとつを、大切な人と。って気取ったキャッチフレーズみたいですが、手作り結婚指輪を検討中の方がいたら心からそうおすすめしたいです。
増原のおすすめリングは……
イエローゴールド/甲丸/クリア仕上げ
好きなのは超シンプルでノーマルなもの。あとは、イエローゴールドってかっこよくて、昔から憧れがあったんです。実は自宅にも指輪を作る道具が揃っていて、自分の結婚指輪もイエローゴールドを選んで手作りしました。お家でもつい作っちゃうんですよね。趣味なんだと思います。