「もしかして自分ってちょっと役に立ってる!?」
Craftman interview 23
S.NAGAMATSU
「自分のことは大好きだけど、自信があるわけではない」と語る永松。数々のアルバイトを経て、鹿児島からの上京、そして派遣社員としての日々――。常に目の前のことに全力を注いできた永松が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、お客様や指輪とどのように向き合っているのか話を聞きました。
その日暮らしみたいなことしかしていなかったように思います
アルバイトは数え切れないほどやりました。学歴があるわけでもなく、若い頃は就職難だったこともあり、地元の鹿児島でも、30歳で上京してからも、とにかくできることをやるという感じ。飲食店で料理を作ったり、友人のお店を手伝ったり、日雇いの土木作業でも何でも。その日暮らしみたいなことしかしていなかったように思います。
上京したのは30歳の頃で、当時お付き合いしていた人を追いかけて、仕方なく(笑)ただ一緒にいたいという理由で、仕事も決まらないままに上京しました。
とりあえず生活をしないといけないしと、そこからまた飲食店の厨房や、紙の資料を電子化する会社で派遣社員をしたり。特段やりたいことがあったわけではなく、飲食店の厨房も以前やっていたことがあったから、派遣社員もたまたま派遣会社から紹介されたのがこの会社だったっていうだけで……。
鎌倉彫金工房は、派遣を辞めた後に求人を見ている中で見つけました。応募した理由は、絶対に無理だと思ったから。一番無理そうなところからチャレンジしてみようって決めて臨んだ一社目だったんですよね。ダメで元々だからそんなに気負いもなくって、たまたま採用してもらうことになったんです。
目の前のことをとりあえず自分ができる範囲でやる
鎌倉彫金工房で働いてみたいと思った理由は、全く知らない世界だったからですかね。彫金もブライダルの業界も未経験でした。
あとは、お預かり加工などの一人で没頭して作業する時間と、お客様の指輪作りをお手伝いする時間の、「静と動」というか「静寂の時間と活動的な時間」のバランスが理想だと思ったのもあります。
かつて派遣社員をしていた頃、昼は暗幕の中で黙々と紙の資料を電子化する仕事をして、夜はカフェレストランでアルバイトをしていたんです。言い方が合っているか分からないんですが、学校の授業と部活のような感じ。その感じが今の仕事にもあって心地良いんです。
好きな人を追いかけて上京するところから、たくさんアルバイトして、派遣社員になって、ダブルワークして……計画性がないともいえますね(笑)
ただ、自分にはそれしかできないような気がします。長期的に、計画的に物事を進めるっていうのは苦手。ちょっと先のことしか見えなくて、あまり後悔とかもできないタイプなんです。目の前のことをとりあえず自分ができる範囲でやって、頑張ってみたら意外とここまで来れたなっていう感じですかね。
「もしかして自分ってちょっと役に立ってる!?」
仕事で喜びを感じる瞬間は、お客様やスタッフに対して「もしかして自分ってちょっと役に立ってる!?」「もしかして人のためになってる!?」っていうのを感じられたときですね。
前までの私は、仕事が辛くなったり人間関係がうまくいかなくなったりしたら、自分一人だけの世界で他人を交えずに、本や映画や音楽とか、そういうものへ逃げて逃げて、自分を守るタイプだったんですね。そして、そういう自分も嫌じゃなかった。そういうのも良いさ、嫌いじゃねえぜって。でも、もう一方では、自分っていう人間が社会のため、人のためにできることって、何かあるのかな、みたいなことも考えてたりしていて。
自分のことは大好きではあるんですけど、そこまで自分に自信があるわけではないから、他人からの感謝の言葉や表情、態度が、どんなに些細なものでも私にとっては大きな力になります。一人の世界にこもりがちな自分だったけど、案外いい感じでできてんじゃんって。ここにいてよかったとか、ここで働いていてよかったなと感じます。
自分で作ったという感覚を持っていただける
現在ご検討中のお客様へ。結婚指輪では珍しい“鍛造法”を採用しているのが、工房の誇りというか、お客様へおすすめしたいポイントです。
ほとんどの工程をお客様ご自身で行っていただくので、大変な部分やご苦労いただく部分も多いんですけれど、自分で作ったという感覚を持っていただけるのが鍛造法だと思います。大変な工程を乗り越えて、綺麗なリングができた! 自分らしいものができた! と思っていただけるよう、全身全霊サポートいたします。
永松のおすすめリングは……
イエローゴールド、つちめ、ヘアライン
つちめを打つ工程って、難しいんですよ。でも、その難しさの中で偶然生まれる独特の美しさに、魅力を感じます。思ってもみなかったような印象や、思いがけない美が生まれる瞬間に、特別な価値と思い出があるような気がしますね。あとは、使い込んだ風合いも好きなので、経年変化が楽しめるK18のイエローゴールドやヘアラインも個人的に好みです。