ライフスタイルにあわせた指輪をご提案できるように
Craftman interview 14
Y.TOYOSATO
ものづくりに魅せられた、アパレル出身の職人 豊里にインタビュー。
どのような経緯で今の仕事を選んだのか、入社後の働き方などを語ってもらいました。
面白さと同時に難しさも。まだ先があるんじゃないかって
──鎌倉彫金工房のスタッフになる前は何をしていましたか?
服飾系の大学を卒業してからアパレル業界に入って、自社で買い付けたものを服屋さんに売る営業の仕事をしていました。
──では、鎌倉彫金工房への転職は大きなキャリアチェンジだった?
そうですね。アパレルの仕事も楽しかったんですよ。でも、買付けとかもやらせてもらえるようになってから「私は流行を追いたいわけではない」「やっぱり作る仕事がしたい」って思うようになったんです。それが転職を考え始めたきっかけでした。入社して3年経ったくらいでしたね。
元々「作ること」が好きだったんです。服飾系の大学に入ったのもそれが理由で。本格的に学んでいく中で、服より、造花とか刺繍といった小物を作る方が好きだっていうことにも気づいていたんですよね。転職活動している時にそれを思い出して、プライベートでモノ作りの教室に参加していました。後々仕事に繋がったらいいなって、陶芸とか絵とかいろいろ。その中で「彫金」に出会ったんですが、一番難しいと思ったんですよ。
──一番難しいと思われたものをお仕事にしようとされたのですね。
はい。その教室ではバングルを作りました。他のものは簡単にできたんですけど、彫金は面白さと同時に難しさがあって、まだ先があるんじゃないかって感じたんです。
半年間、主にオーダーメイドジュエリーの制作と販売をしている会社に勤めた後、鎌倉彫金工房へ入社しました。
練習期間があったから今、頑張れている
──なぜ、鎌倉彫金工房を次なる職場に選んだのですか?
きっかけは紹介だったのですが、募集要項を見ると「すごい条件よくないですか!?」って(笑)人と接することも好きだから続けていきたい、だけど “ものづくり” もしたいってわがままなことを考えていたのですが、本当に条件にぴったり合うところで驚きました。彫金に関するスキルは問わないとあったので、すぐに応募したんです。
──実際に働きはじめて感じたことを教えてください。
入社してまず驚いたのは勤務時間内に練習ができることですね。変な言い方ですが、ほぼ指輪を作る練習しかしていないのにお給料がもらえる(笑)これって多分当たり前じゃないと思うんですよ。接客デビューしてしっかり貢献しなきゃという気持ちになって、この期間があったからこそ今、頑張れているっていうのはありますよね。
あと、これは入社後しばらくしてからですが、ブライダル(結婚指輪・婚約指輪)の接客に入ると聞いた時は、重い責任を感じてどうしようかと(笑)一生身につけていただくものですし、人生の中で1度しかしない買い物ですよね。ブライダルの接客を担当するようになって随分経ちますが、その気持ちは未だにあります。
──仕事内容についてはいかがでしたか?
仕事内容は、募集要項に書かれているとおりで、ほとんど残業もないです。休みもしっかり週2日とれますしね。新入社員にありがちな「面接の時と違うんだけど!」みたいなミスマッチもありませんでした。あと、スタッフは個性的な方が多いかな(笑)
──豊里さんは、女性社員の第1号でしたよね。
私が第1号ですが今では8人(2018年5月 現在)の女性がいて、男性の方が少ないくらいなんですよ。だから、徐々に女性も安心して働ける職場になっていっていると感じています。産休、育休やその後の働き方についても、すごく考えてくれているなと思いますね。
1ヶ月で50本は作ったんじゃないかな
──最初に苦労したことを教えてください。
入社後は、お客様を担当する前に、先程申し上げたように一人で指輪を作る練習から始まります。前職のジュエリー店では制作に携わることはほとんどなく、彫金に関してはほぼ初心者だったので、まず出来ていないことが分からなかった。自分で「よし完成した!」と思って先輩にチェックしてもらうと、「ここにキズがあるね」「まだ曇ってるね」って言われて「あ、本当だ」と……。
──繰り返していくうちに徐々に分かってくるものなのですか?
そうですね。それが感覚で掴めるようになるまでには、もちろん個人差はありますが、シルバーの場合、私はだいたい1ヶ月くらいかかりました。リングを1本作ったら、今度はそれがペラペラになるまでヤスリがけの練習をするんですよ。練習期間の1ヶ月で50本は作ったんじゃないかな。
──その練習期間を経て、お客様を担当できるようになるのですね。
はい、そうなると今度はスピードが課題になります。直すべき箇所を的確に認識して、最低限の手数で直していくことですね。自分が素早くできないと、お客様の作業が進まないんですよ。
スタッフごとに接客の雰囲気やスタイルが違う
──スピードを上げるのには、やはり経験が必要なのでしょうか?
そうですね。同じ傷はひとつもありませんから、経験を経て引き出しを増やすことでしか身につかないと思います
あと、接客する上では伝え方も大切ですね。こうしてほしい、こうした方がいいよっていうのを分かりやすく伝えられれば、お客様自身でコツを掴み上手にお作りいただける。今まで「売る」っていう仕事はしてきましたが、この仕事は「教える」「作っていただく」という意味合いが強くて、接客の仕方が全然違うんですよ。伝え方によってはお客様の捉え方が違うこともありますしね。伝えるのって本当に難しい……。
──伝え方について、決められたフレーズなどはないのですか?
お客様を担当する前は、嶋﨑や仲田からレクチャーを受けたりロープレをしたりしますが、基本的なご説明以外に決められた接客フレーズってないんですよ。
だから、スタッフごとに接客の雰囲気とかスタイルとかが違うんです。
フランクすぎたら失礼だけど、丁寧すぎたら冷たく距離があるように感じられますし。自分の性格とかけ離れた言い回しだと緊張したり、間違った敬語を使っちゃったりとか。他のスタッフを観察したり試行錯誤したりしながら、オリジナルの接客を確立していっています。
ライフスタイルにあわせた指輪をご提案できるように
──伝え方以外に、お客様を担当する上で大切にされていることはありますか?
素材・デザイン決めの段階を大切にしています。結婚指輪って一生モノですから当然、素材やデザインなどで迷われる方もいらっしゃいます。「硫黄系の温泉によく入りますか?だったらプラチナの方が安心ですよ」とか、その方のライフスタイルにあわせた指輪をご提案できるように、ただ特徴を羅列するだけじゃなくて、質問したり、サンプルを探したり。
お客様の反応を見て、何に悩んでいらっしゃるか、何を求めていらっしゃるかを突き止めて、一緒に考えることを意識しています。一生モノだから、絶対に後悔してほしくないと思って。
──やりがいを感じる瞬間を教えてください。
いろいろありますね。うーん、1番は、指輪の制作が終わってお客様がお帰りになる時、「楽しかったです」って言ってもらえた時ですね。2番目は、石留め後の検品で先輩から「いいね!」って言われた時でしょうか。
素直で、穏やかで、心が広い方ばかりなんです
──どんな人と働きたいですか?
素直で柔軟な考えができる方ですね。
先程も申し上げましたが、接客スタイルってスタッフによって違うじゃないですか。他のスタッフの接客を見て「どうかと思う」って否定するんじゃなくて、「ああいうやり方もあるのね」って自分の接客にも取り入れていけるような人と働きたいと思いますし、そういう人がこの工房に合っているのでは、と思います。今どんどんスタッフが増えてきていますが、みなさん素直で、穏やかで、心が広い方ばかりなんですよ。
ひたすらやり続けないと分からないこと
──最後に、新しく一緒に働く仲間にメッセージをお願いします。
やる気と忍耐力があればできると思います!
やり続けていると「なんでできないんだろう」って、どうしても苦しくなる瞬間がある。でも、たとえ苦しいままでも、ひたすらやり続けないと分からないこともあります。やる気と忍耐力があれば、きっとそれも乗り越えられます。これって、忍耐力って言うんですかね?なんかしっくりこない……。やり続けること?継続する力?持久力?そんな感じでしょうか。うーん、伝え方って、やっぱり奥が深いです……(笑)