指輪を作るだけじゃなく、特別な時間を作っているような気がします
Craftman interview 22
A.ONODERA
丁寧でありながら親しみを感じる話し方が印象的な小野寺。工房との出会いに「運命を感じた」と語る彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
冠婚葬祭の中でも、今度は晴れの日のお手伝いをやってみたい
かつては、地元岩手県の葬儀屋さんで働いていました。勤めていたところでは、故人のお迎えから、お着せ替え、葬儀の司会、霊柩車の運転まで、すべてを一人のスタッフが担当します。
初めてお会いする方のお宅へ突然お伺いして、ご家族と急にお会いし、わずか1週間で全ての葬儀の手配を行うという、スピード感と緊張感のある仕事。そのような短い間でも、親しみやすく、知識を持って安心して相談できる人間でありたいと、常に頑張っていた記憶があります。この経験は、工房の接客にも大きな影響を与えていますね。
確かに、お客様との出会いのきっかけは悲しいものだったんですけれど、一周忌とかで長くお付き合いさせていただくこともありまして、大変ながらも、楽しい、と言うのは憚られるのですが、やりがいのある仕事でした。
鎌倉彫金工房に出会ったのは、偶然。求人を初めて見た時、何となく、すごく自分にマッチしていると感じたんです。冠婚葬祭の中でも、今度は結婚式というか結婚するお二人の晴れの日のお手伝いをやってみたいと思ったことと、接客がしたいという願望もありましたし、手を使った細かい作業も好きで手に職をつけたいという思いもあったり。アクセサリーも好きでしたしね。
岩手訛りを直したかったのもあって、コールセンターで勤めたあと、鎌倉彫金工房へ入社しました。
「楽しめばよし、伝われば幸」
仕事で大切にしていることは、お客様と一緒に楽しむことです。工房には「楽しめばよし、伝われば幸」という社訓がありますが、私たちが仕事を楽しんでいれば、自然とお客様を歓迎する雰囲気ができますよね。この雰囲気って、お客様が安心して指輪作りを楽しんでいただくために大切だと思うんです。3時間という長い時間を一緒に過ごしますからね。
あとは、スタッフ同士のコミュニケーションも大切にしています。仕事を選ぶ基準って、仕事内容とか場所とか、お給料とか、いろいろあると思うんですけれど、私が一番大切にしていたのはコミュニケーションでした。
工房には、互いに気持ちよく仕事をしようという雰囲気があるんですよね。発言しても絶対否定しないんです。Noとかダメではなくて、まず「いいね」。受け入れてくれる環境だと感じますし、私も他のスタッフを受け入れることを意識しながら、互いに気持ちよく仕事ができる環境づくりを大切にしています。
喜びを感じる瞬間は、お客様からメッセージをいただけたとき
喜びを感じる瞬間は、お客様からトークルームやアンケートなどでメッセージをいただけたとき。私の接客を喜んでくださっているのを知ると、とても嬉しいんです。お客様がお帰りのときに「楽しかった」と仰っていただけるのも嬉しいですね。救われた気持ちになります。
あとは「小野寺さんだから任せられた」というお声にも心からの喜びを感じます。実は、以前の葬儀の仕事では、スタッフもお客様も年上の方が多く「若いのが来た」と驚かれることがしばしばありました。若いというだけで不安を与えてしまうこともあると思うので、頼れる存在になれるようにっていうのは強く意識していたんです。この頃の経験もあって、今お客様に安心して任せていただけると、もちろんその分責任は重大ですが、やっぱり嬉しいですよね。
指輪を作るだけじゃなく、特別な時間を作っているような気がします
加工のお仕事の楽しさは、本当に最近、やっと見いだせたような気がします。接客に入りたての頃は何が良いのか悪いのか、指摘をいただけないと見えなかったのが、ようやく見えてきた。どう手を入れたら良いかが分かるようになり、できるようになって、お客様に伝えられるようになってきたので、接客もますます楽しくなりました。お客様にコツをお伝えして、やっていただけた時には二重の喜びがあるというか。「伝わった!」って嬉しくなります。
接客しながら感じるのが、ただ指輪を作っているだけじゃないということ。何というか、特別な“時間”を作っているような気がします。
ご結婚指輪だけでなく、お客様がご結婚5年、10年、20年といった大切な節目に指輪を手作りされる時、それは単なる記念のイベントではなくて、これからの物語のスタートのようなものだと思うので。そんな節目の瞬間を共にできるって、素敵な仕事だなと思います。
小野寺のおすすめリングは……
甲丸、マット仕上げ
同じつや消しのヘアライン仕上げと比較して、粗くしっかりとした傷がアンティーク感が出て好き。甲丸のつけ心地の良さもあって、違和感なく日常使いしていただけると思います。身につけていくうちに、傷が少しずつ潰れていくというか、柔らかくなっていく経年変化も楽しいんです。