お客様の思いや時間が、指輪という形になる
Craftman interview 28
H.TAKAHASHI
誠実な人柄が伝わる、穏やかな語り口が魅力の高橋。お客様の想いが「形」になる仕事に惹かれ、未経験の職人へと自らの意思で道を切り拓いた彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
お客様の思いや時間が、指輪という形になる
高校を卒業してすぐ、地元・山形のホテルでフロントとして働き始めました。そのホテルは、姉や親戚が勤めていたこともあり、もともと馴染みのある会社だったんです。3年ほど勤めた頃、今度は自動車ディーラーからお声がけいただきました。そこも祖父の代からの長いお付き合いのあるお店で、本当にご縁とタイミングに恵まれてきたなと感じています。
高校生の時から「人と関わる仕事がしたい」と思って選んだ道だったので、これまで経験してきたお客様対応の仕事も大好きでした。その上で、鎌倉彫金工房の「お客様の思いや時間が、指輪という形になる」というのが、これまでとは違った新しい魅力を強く感じました。
また、ディーラーで働いていたときに目にしていた、エンジニアなどの“手に職”を持つ専門職の方々への憧れもあり「自分も何か専門的なことに挑戦してみたい」という思いも、後押しになりました。
鎌倉彫金工房は、それまでのご縁とは違って「ここで働きたい!」と自分の意思で応募した初めての会社でした。未経験っていうこともあったので不安はありましたが、「やらないより、やってみよう」って。無事に採用していただいて、関東へ引っ越しました。
それまでずっと実家暮らしで、電車を1本逃したら1〜2時間待ち、どこへ行くにも車という世界から来たので、生活は大きく変わりましたね。でも、夫が横浜の人で土地勘があったので、そこは心強かったです。
何が不安で、何が心配になっているのか、何となく感じ取れる
私も未経験でこの会社に入社したので、お客様が何が不安で、何が心配になっているのか、何となく感じ取れる部分があるんですよね。だからこそ、その不安を少しでも和らげられたら、と思っています。
制作は3時間と限られた時間ですが「ここ、不安かな?」と感じたところは、より丁寧にご案内したり、一度お手本として隣で私がやってみせたり。そうやってお客様の不安を少しずつ取り除いて、最後には「楽しかった」って言っていただけるのが一番です。
そして、お客様に心から楽しんでいただくために、私自身がまず楽しむ気持ちでいることも大事にしています。「作った笑顔」って結構伝わってしまうなっていうのは、今まで接客業をしてきて感じるところでもあったので。
もし私がマイナスな気持ちでいると、それがお客様に伝わって「何かあったのかな」「自分が何か悪いことしちゃったかな」と思わせてしまうかもしれない。お客様の大切な指輪に、そういう気持ちが込められてしまうのは本当に良くないので。たとえ何かがあったとしても「それはそれ」と切り替えて、まずは私自身が制作の時間を楽しめるように、というのはいつも意識しています。
「結婚式で、名前を出してもいいですか?」
この仕事をしていて一番嬉しいのは、やっぱり、お客様からいただく言葉です。口コミやアンケートで「楽しかった」「また作りに行きたい」「メンテナンスの時もお願いします」といった言葉をいただくと、自分のやってきた接客スタイルは良かったんだな、と感じることができます。
中でも、以前ご制作いただいたあるお客様からのメールは、今でも忘れられません。「結婚式で、工房と高橋さんの名前を出してもいいですか?」という内容だったんです。まさか自分の名前まで出していただけるなんて、すごく嬉しくて。結婚式という、一生に残るイベントで自分のことを思い出して、紹介したいと思ってくださった経験は、これまでの仕事ではなかったことなので、とても印象に残っています。
もちろん、目の前で喜んでくださる姿も日々のやりがいになっています。指輪が完成して、ケースをパカっと開けた瞬間の、お客様の喜んだお顔を見ると「ああ、お手伝いができてよかったな」って、心から思いますね。
「ママ、すごいね」って言ってもらえたら
実は産休で1年ほどお休みをいただいて最近復帰したのですが、正直「大丈夫かな、感覚、忘れてないかな…」という不安はありました。でも、いざやってみると「身体って覚えてるんだな」って。まだまだ模索している途中ではあるんですけど、手に職があるということを、改めて実感しました。
最近は、新しい目標もできたんです。いつか自分の子供が大きくなった時に「ママ、すごいね」とか「ママみたいに作ってみたい」って言ってもらえたら、最高だなって。もし「私も将来この仕事がしたい!」なんてことになったら、この仕事を選んで本当によかった、とまた思えるはずです。子供に自慢してもらえるように、これからも頑張りたいですね。
高橋のおすすめリングは……
つちめデザイン✕マット仕上げ
一番の魅力は「唯一無二のデザイン」になるところ。つちめは、お二人でお互いの指輪の模様を打ち合うことで「あの時こうだったね」「この打ち方、個性的だね」みたいな会話や記憶が鮮明に指輪に込められると思います。マット仕上げも、つちめの深さや形によって付き方も変わってくるので、手作りならではの温かみや個性を一番表現できる組み合わせだと思っています。