自分にできるかな、が楽しさに変わる瞬間が面白い
Craftman interview 10
M.YASUDA
3年前、花屋からの転身を果たした安田。自分らしい、自分しかできない接客を大切にお客様のために全力で取り組む彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
自分にできるかな、が楽しさに変わる瞬間
小さい頃は図工とか美術とか、特に絵を描くことが好きで、高校卒業後はイラストの専門学校へ通いました。お花屋さんに勤めた後、接客とものづくりの両方がしたい、あとは都内の通勤電車で大変な思いをしたくないという理由も少しあって、3年前に鎌倉彫金工房へ来たんです。今はお客様と一緒に1本の金属から指輪を作る仕事と、加工の仕事を担当しています。
初めて工房で指輪づくりを見たとき、分からないこととか「自分にできるかな」という不安が楽しさに変わる瞬間が面白いと感じました。そんなお客様の姿を見られるのが今のやりがいにもつながっています。
これまでの人生の中で、できなかったこととか、やってみたいけどできないからって諦めたこと、性格もあると思いますが、聞きたくて聞けなかったこと、言いたいけど言えないとか、そういう小さな積み重ねも含めて、本当にいっぱいありました。そんな私だからこそ嬉しいんです。3時間前はできないかも…とお話ししていたお客様が、完成したリングを見て、私たちもできたねって、やっと作れたねとお話ししてるのを見ると、すごく嬉しい。伝えられたんだと安心もします。
目と耳で判断するようになりました
入社後2年間くらいは、ほとんど接客。試行錯誤の繰り返しでした。接客を任されるようになったばかりのころは、お客様の作業を立ち止まって眺めたり、「見ますね」と言ってこまめにお客様の指輪をチェックしていました。何度も見られたらちょっと嫌ですよね。
それが一人で練習する中で、次第にどんな力で何回削れば、どれくらい傷が取れるというのが感覚で分かるようになる。自分の成長を感じることができて面白かったですね。今では「手が止まってることが多いし、傷が見えなくなってきたんじゃないか」とか「すごい勢いで音が鳴っているな、削りすぎかも」とか「あの体勢は大変そう。5分続けられないな」とか、目と耳で判断するようになりました。
接客以外の仕事では、オプションなどのお預かり加工も。最近では私自身にできることが増え、お客様に話せることも増えました。加工の手順を語ったり、こういう手もありますというご提案もできるように。お客様がより望む指輪の形に近づけられるというのをお話ししていて感じますね。
大切にしているのは、目的を明確にすること
お客様にお伝えする時も、自分が覚える時も、大切にしているのは、何のための工程かという目的を明確にすることです。
これまで接客で大切なのは、人柄とか言葉遣いとか笑顔とかの雰囲気作りだと思っていました。それももちろん大切ですが、もっと技術的、論理的に、その工程の目的を理解できた方が、「漠然と印象が良さそうな人に教えてもらう」ことよりも安心できる、不安が少なくなることに気づいたんです。
例えば、こう削るからこの角が取れるんですとか、この素材はこういう性質があるからこの素材を使って磨くと綺麗になるんですとか。工程を論理的に理解できれば私も安心して教えられますし、お客様も納得して面白がってくれる。あとは自分たちでジュエリーという高価なものを作ってるんだっていうのを、改めて実感していただけるきっかけになることもあると思います。
もちろん空気作りも大切。マニュアルはなく、とにかく話しかければいいというわけでもない。お二人の時間を過ごしたいという方もいれば、話しかけてくれる方もいらっしゃるので、最初の挨拶やデザインで悩まれている時の空気を、まずは聞きながら感じるっていうのは毎回やっています、こっそりと(笑)
自分らしく仕事ができているのは幸せ
わがままですが、誰がやっても同じ品質になるような指輪づくりは面白くない。でもクリエイターと言われるようなアーティストやデザイナーさんみたいにゼロから全部自分でというのも自信がないし、そもそもやりたいことでもない。その真ん中で、自分らしく仕事ができているのは幸せです。
これからも入社当時と変わらない志を持てる人でありたいです。わからないこと、不安なことを楽しいという感情に変える仕事に魅力を感じて、この仕事を選びました。これを何歳になってもできるように、誰かに教える立場になっても、接客に立てなくなったとしても、指輪に関わる上ではその気持ちを忘れないでいたいです。
安田のおすすめリングは……
イエローゴールド/つちめ/2.5mm幅
つちめは指輪1本だけで物語あるのが好き。例えば最初は強すぎちゃったけど、慣れてきて均等に打てたりとか。ですから結婚指輪やペアリングは途中で交換して、お互いに作り合うのもおすすめです。石は入れても、入れなくてもいいかな。つちめは凹凸が光を反射して石がなくてもキラキラするので、金属そのものの美しさが楽しめると思います。