作る楽しさを伝えたい、そして喜んでもらいたい
Craftman interview 20
S.SHIMAZAKI
2012年に鎌倉彫金工房を立ち上げた嶋﨑。「作る楽しさを伝えたい、そして喜んでもらいたい」を理念に掲げる工房の代表が、鎌倉彫金工房をはじめたきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
ジュエリーメーカーの職人になると…
学生時代というのは、勘違いするものですから(笑)高校を卒業してジュエリーの専門学校に通っていた頃は、比較的成績が良かったのもあって一定の技術を持っていると自負していました。それが卒業後に入社した会社で体験型店舗の立ち上げに参加させてもらった後、ジュエリーメーカーの職人になると、自分の想像を遥かに超える技術を持った職人が存在していること、一方で自分には技術が足りていないことに気づくわけです。
鼻をへし折られるというんですかね。「上には上がいるんだな」って。そんなプロフェッショナルたちと同じ土俵で仕事をしていく中で、自分の技術の限界や、目指したい方向について深く考える機会ができたんです。「技術だけを極めることは自分のやりたいことではない、他に追求したいことがあるかも」と。
「自分の好きなことで生計を立てたい」が、焦りに
「なぜ手作り結婚指輪の工房を始めたのか?」という質問を受けることはよくありますが、実は、至極個人的なんですけれど、きっかけは家庭の変化です。子供が生まれるという大きな変化を迎えて、それまで漠然と考えていた「自分の好きなことで生計を立てたい」という思いが、焦りに変わりました。やらなきゃ後悔するだろうなと。
前の会社で体験型店舗に勤めながら、アクセサリーブランドの立ち上げをやらせてもらったことがあったんですが、それは見事形にならずに終わりました。商品をデザインして作るだけではだめで、それを多くの人に知ってもらって買ってもらうための取り組みが必要で、当然そんなに甘いものではないんですよね。
でも、そんな挑戦と失敗を経て、ひとつの確信に至りました。お客様との接点を持つことや、ものを「作る楽しさ」を共有することって、価値があるなって。この思いが元になってできたのが鎌倉彫金工房なんです。過去に体験型工房の立ち上げを経験させてもらったこともありましたし、これならなんとかできるんじゃないかと。
「これ自分で作ったの!?すごい!!」
この仕事をしていて喜びを感じる瞬間は、手作り結婚指輪を喜んでいただけた時と、インテリアを褒めていただけた時と、指輪作りに使う工具に関心を寄せていただいた時と、オリジナルのリングケースを褒めてもらった時と、口コミでスタッフが褒められているのを見た時。それ以外にも色んなシーンで喜びを感じるんですが、なんでも、いちいち嬉しいです(笑)
中でも自分の作ったモノやサービスを、喜んでもらったり、驚いてもらったりしたときは嬉しいですね。印象に残っているのが、ディスプレイ用のリング挿しを初めて作った時。イメージするものが売っていなかったので、材木を買って、切って、圧着して、磨いて、中にクッションを詰めて作ったんです。
見たことないリング挿しができたと思って妻に見せたら「これ自分で作ったの!?すごい!」と言ってくれて。それがめちゃくちゃ嬉しかったんです。指輪じゃなければ、お客様でもないのですが、このときの喜びが「鎌倉彫金工房で作る楽しさや感動を伝えたい」という原点になっているような気がしています。
作る楽しさを伝えたい、そして喜んでもらいたい
作る楽しさを感じた“目覚め”ははっきりと覚えています。小学校高学年の時、技術家庭科の授業で、真鍮を削り出して習字で使う文鎮を作ったんです。もともとレゴブロックや牛乳パックで工作したりするのも好きでしたが、家族が習字教室をしていたのもあって身近な存在だった文鎮が、自分の手で作って、できた。「何かめっちゃ面白いじゃん」って感じました。
鎌倉彫金工房の経営理念である「作る楽しさを伝えたい、そして喜んでもらいたい」というものがあります。私は、人って本質的に「手を動かして、何かを作り出す」ことが好きだと思ってるんですね。不器用だと感じる方とか、得意じゃない方もいらっしゃると思うんですけど、そういった方々にこそ、作る楽しさを味わってもらいたいんです。
上手とか下手とか、それ以前の、楽しむことの価値。これを伝えて喜んでいただけたら、これ以上のやりがいはありません。
嶋﨑のおすすめリングは……
イエローゴールド、マット仕上げ
イエローゴールドの色みとマットの優しさが、結構ずっと好きですね。特に鎌倉彫金工房のマット仕上げは、他のブランドのマット(つや消し)と違った独特な感じなんですが、キラキラした感じを残しつつ、落ち着いた雰囲気もあるんですよね。自分の結婚指輪もイエローゴールドのマット仕上げで作りました。ずっと使っているので結構ツルツルになってきましたけど、それもまた味だと思っています。